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これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

小さな海辺の街、ヤッフォとアッコ イスラエル(4)

小さな海辺の街、ヤッフォとアッコ イスラエル(4)

イスラエル旅行の発端は、友人の結婚式だった。夜遅くまで続いた盛大なお祝いの翌日、国内外から集まった親戚や友人たちが最後にもう一度集まれるように、カジュアルなブランチが用意されていた。現地に住む友人が手配したカフェは、テルアビブのビーチを南に下ったヤッフォ(アラビア語ではジャッファ)にあった。紀元前18世紀ごろから地中海の港街として栄え、最近はファッショナブルな若者たちがこぞって集うお洒落なエリアだ。古い建物を開放的に改装したカフェや、木漏れ日に包まれた奥のテラスは、のんびりと休日の朝を楽しむ地元の人々で賑わい、洗練された雰囲気が漂っていた。

 地中海にせり出した要塞のようなヤッフォは気軽に散策できる小さな街だ。丘の上には、一点ものの作品が並ぶ高級ギャラリーやショップが軒を連ねる。建物から道路まで全てが石で造られた街ながら、全体を包む緩やかな曲線や淡い石の色が優しい印象を与える。入り組んだ石畳を照らす柔らかい影に、パステルブルーのドアが映える。一番上まで登ると、青い海が街をより白く、輝かせているように見えた。

 ヤッフォの丘を下ると徐々に庶民的な雰囲気が増す。港にずらりと並ぶ古い倉庫は、スタイリッシュなカフェやレストランへと生まれ変わり、午後の日差しを楽しむ人々でいっぱいだ。波止場で演奏される音楽に足を止める人も多く、一帯は若者から家族連れまで大賑わいだった。定期的に開催されるアートマーケットや蚤の市では、真剣な眼差しで品物を吟味する客と店主のやりとりも楽しい。アーティスティックな雰囲気が漂うヤッフォには今、テルアビブから多くの若者が移り住んでいるそうだ。

海辺で釣りをしていた男性2人組。狙うは50メートルほど先の魚の群れ

海辺で釣りをしていた男性2人組。狙うは50メートルほど先の魚の群れ

 テルアビブへ戻る道すがら、海辺で釣りに勤しむ男性の2人組みを見かけた。小麦粉を練ったような餌をつけては、50メートルほど先に群れる魚にピタリと釣り糸を投げ込んでいる。釣れた魚を見せて、と頼むと、「今日はまだ釣れていないよ」と、年配の男性が少し恥ずかしそうに笑った。

 魚といえば、レバノン国境に近い海沿いの街、アッコのレストランで食べた「魚の盛り合わせ」が印象的だった。一人前を頼んだはずが、薄い衣をまとった小さな鯛や鯵のような魚が計8匹、大皿に盛られて出て来た。前菜のフムスやナスのディップを焼きたてのピタパンにつけて堪能し、すでに腹八分目だったが、時すでに遅し。添えられたレモンの爽やかな香りに包まれて、見た目よりも繊細な味わいだった。豪快に丸揚げされた魚料理がいかにも港街風で嬉しく、苦しみながらも結局平らげてしまった。

古くから栄えた港街のアッコは、テルアビブから電車で1時間半ほど北にあり、ヤッフォよりのんびりとした、田舎街という雰囲気だ。旧市街地を囲む城郭のすぐ外では地元の男性たちがエメラルドグリーンの海で日光浴を楽しみ、狭い路地のあちこちでは子供たちが楽しそうに駆け回る。中心部にあるマーケットは夕方前には店じまいを始め、仕事後の一服か、甘い水タバコの煙がどこからともなく漂っていた。

こじんまりとしたアッコ旧市街地だが、地下にはもうひとつの街が隠れている。十字軍が築いた要塞の地下に、礼拝堂、商店街、牢屋や宿泊所などが完備された、地上と変わらない規模の街の遺構があるのだ。他にも、距離感覚がわからなくなるほど広大な騎士団の食堂など、驚くような規模の施設が数々残されている。さらに、街の西端の砦と東端の港をつなぐ全長350メートルのトンネルがあり、エルサレムを巡ってイスラム教諸国と戦う十字軍にとって、この街がどれほど重要な拠点であったかがうかがわれる。

遺構のすぐ隣には、アッコのランドマークにもなっている緑色のドームのモスクがある。こちらは十字軍より後のオスマントルコ時代に建造されたものだ。アッコの旧市街地には今でも多くのイスラム教徒が住んでいるという。夕日に浮かび上がる街のシルエットに、モスクのスピーカーから流れてくる祈りの声が美しく重なる。何気ない日常の風景が愛おしい。数々の大国が征して来たこの街に、そしてこの地域全体に、こうした平穏なひとときが絶え間なく、いつまでも続くように心から願った。

<取材協力>

トルコ航空:https://p.turkishairlines.com 

この記事は、2017年に朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。

音楽で溢れる雨期のジャカルタ インドネシア(1)

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境界線の向こう側、ヨルダン川西岸地区 パレスチナ

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