地中海の街、テルアビブをのんびり散策 イスラエル(1)
イスタンブールで乗り換えた飛行機は、地中海を南へと進んでいる。光り輝く海にキプロス島が影を落とし、左手奥にあるはずのシリアは雲に包まれて、姿を捉えることができない。レバノンを過ぎれば、もうイスラエルだ。
テルアビブのあちこちで建設工事が行われている。ここ10年で高層ビルもだいぶ増えた。
建設ラッシュだろうか。空港から電車で15分、駅の外には高層ビルやクレーンが競うように青い空にのびている。改札で荷物検査を取り仕切る若い兵士が、肩掛けカバンのように大きな銃を背負っているのを見て、イスラエルに来たという緊張感がわいた。「テルアビブへ、ようこそ!」バックミラーに笑顔が弾け、濁音の強い英語でおしゃべりをしながら、年配のタクシー運転手は右へ左へとクラクションをすり抜けていく。
どこからか、にぎやかな中東風の音楽が聞こえてくる。すれ違うオジさんが、音楽に合わせて歌ったり、ステップを踏んだり、なんだか楽しそう。海に近づくにつれて街並は落ち着き、日に焼けた淡い色の建物や、木陰のテラスに集う人々はヨーロッパを思わせる。
南北にのびる海岸線の真ん中辺りにあるテルアビブは、100年ほど前まで地中海を臨む砂丘だった。そこに66家族のユダヤ人が1909年に街をつくり、ヘブライ語で春の丘を意味する「テルアビブ」と名付けた。街は成長を続け、今では人口43万人を抱えるイスラエル随一の経済都市となった。そして、スタイリッシュな若者たちが集う流行の発信地だ。
荷物を置いてビーチへ向かう道すがら、カルメルマーケットに立ち寄った。市場の周りには、アートマーケットやトレンドの発信地であるシェンキン通りがあり、若い女の子たちがミント入りのレモネードを片手に、カフェのテラスでおしゃべりに花を咲かせている。
美味しいものを求めて、洋服や小物類が両側に積まれた狭い市場の路地を奥まで真っすぐ進む。「シェケル、シェケル、シェケル!」と売り子の声が飛び交う溌剌とした雰囲気は、上野のアメヤ横丁さながらだ。焼きたてのピタパンや色とりどりのオリーブ、ずらりと並んだ焼き菓子に心踊らせつつ、香り高く、弾けるようにジューシーなブドウやイチジク、マンゴーを買い込んだ。香ばしい匂いが立ちこめる屋台や食堂で腹ごしらえするのも楽しい。
市場を抜けて、5分ほど歩くとビーチだ。空はカラッと晴れあがり、地中海はどこまでも青い。リゾートホテルに縁取られた砂浜は、こんがりと日に焼けた観光客や地元の人でにぎわう。色とりどりのビキニに混じって、全身を覆う水着をまとったイスラム教徒の女性たちも水しぶきをあげて楽しんでいる。服装は違っても、無邪気に海辺で遊ぶ姿は万国共通なのだ。
イスラエル人と一口に言っても、肌や髪の毛の色、顔つきは様々である。宗教も多様だが、テルアビブではユダヤ教の男性がかぶるヤマカ帽やムスリムの女性のベールで、違いがかろうじて分かるくらいだ。
地中海に夕日が沈む頃、家族連れがバーベキューを囲むビーチ沿いは、あちこちから登る煙で美味しそうな香りに包まれた。穏やかな夜風が心地良い。柔らかい光に照らされた街角のテラスには、夜深くまで楽しそうな声が響いていた。
<取材協力>
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<イスラエル>
イスラエルの通貨シェケルは、1シェケル25円から30円で変動している。物価は全体的に日本とほぼ変わらない。金曜日の日没から土曜日の日没まではユダヤ教徒の休日となり、場所にもよるが、レストランやお店、公共交通機関がほとんど閉まってしまうため、注意したい。公用語はヘブライ語とアラビア語だが、英語が広く通じる。
*この記事は、2017年に朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。