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Hi.

これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

最古の集落を訪ね 竹の足場がつくる街を思う 香港(5)

最古の集落を訪ね 竹の足場がつくる街を思う 香港(5)

九龍(カオルーン)から乗った地下鉄は、15分もすると青々とした山の中に出た。遠くに高層ビル群が見え隠れし、やがて、山のふもとにぽつりぽつりと、真っ白な新興住宅街が現れ始めた。
香港の人口はここ20年で100万近く増えている。東京都の半分ほどの面積に政令指定都市を追加したような成長ぶりだ。「香港で最も古い集落のひとつ」、屏山(ピンシャン)に向かう道すがら、香港の今を象徴するような光景を目にするとは思いもよらなかった。

天水囲駅から出ると左手に、香港で現存する最も古い塔と言われる聚星樓が見える

天水囲駅から出ると左手に、香港で現存する最も古い塔と言われる聚星樓が見える

最寄の天水囲(ティンショイワイ)駅には、拍子抜けするほどあっという間についた。現地の知人に「そんなに遠くまで行くの?」と言われた屏山観光だが、九龍から直通の電車で30分足らずにすぎない。香港の人たちにとっては遠い距離なのだろうか。ここから中国の深圳市まではたったの10キロで、香港のほぼ最北端まで来たことには違いない。
屏山は、12世紀にこの地に居を構えた鄧一族の集落で、都市の再開発が盛んな香港にはめずらしく、昔の生活の面影を残す希少な場所のひとつだ。しかし、駅の片側に見えるのは商業施設と新興住宅街、反対側にある背の低い家々も現代的だ。とても古い集落があるようには思えなかったが、駅のすぐ南側に静かに存在していた。

鄧一族が作った古い建物群を巡る散歩道(ヘリテージ・トレイル)が設置されてはいるものの、屏山は観光地というよりは現役の生活の場だった。そのため、住民が暮らす建物はいかにも現代風で、古い石造りの家は長い間手つかずのまま所々に点在している。それでも、城壁にぽっかりと空いた入り口から見える共同の水場や、人ひとりがやっと通れるような狭く迷路のような路地に、長い間この地で営まれてきた暮らしが垣間見えるようで、胸がときめいた。

のんびり散策していると、大きな駐車場の奥に鄧一族の祖先が祀(まつ)られる鄧氏宗祠が現れた。信仰に加え、集落の人々にとっては祭りや会議の場としても大切な場所だ。700年ほど前に建てられたのち、何度か修復されている。色彩鮮やかな彫刻の縁取りや、隅々までさっぱりと掃除された中庭に、脈々と続く祖先を敬う心と文化の豊かさを感じ、背筋が伸びる思いがした。

集落を散策中に何度か、ふと顔を上げると1990年代にできたという駅の反対側にある新しい住宅が目に入った。これもまた、常に前進を続ける香港らしい風景なのかもしれない。

混沌とし、エネルギーあふれる香港で脈絡と続くのが、竹の文化である。街の再生を支えるのは、鉄パイプではなく、竹で作られた足場なのだ。香港の中心街で、30階建てのビルがすっぽりと格子状の竹に囲まれている様子は圧巻だ。

足場を組むには国家資格が必要で、その職人たちは高給取りだという。軽くて安く、しかし強靭(きょうじん)な竹は、湿度の高い香港にぴったりの素材だ。屏山の家々も、新たに建設される新興住宅街も、同じように竹の足場が組まれ、築かれてきたのだろう。しなやかな竹は、時代に翻弄(ほんろう)されながらも、独自の個性を育んでいる香港そのものだと思った。

取材協力:香港政府観光局、キャセイパシフィック航空

<旅の情報>

香港は空路で東京から約4時間。世界トップレベルの安全性を誇るキャセイパシフィック航空が便利だ。リニューアルしたばかりの空港ラウンジでは、担々麺の食べ比べやお茶バーが人気。香港駅と九龍駅にチェックインカウンターがあり、飛行機と荷物のチェックインを済ませることができるため、最終日も手ぶらで香港観光が楽しめる。

この記事は、2016年10月12日付で朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。https://www.asahi.com/and_travel/20161012/2839/

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