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これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

暖かい人々に出会う王族の街、ジョグジャカルタ旧市街地 インドネシア(2)

暖かい人々に出会う王族の街、ジョグジャカルタ旧市街地 インドネシア(2)

ジャワ島中部に位置するジョグジャカルタは、インドネシアで唯一、未だに王族が政権をとっている特別州だ。王族の暮らす王宮、クラトンを囲むように広がる旧市街地には、緑に囲まれた平屋がゆったりと建ち並び、今でも王家の親族や、王宮に仕える人々が大勢住んでいるそうだ。高層ビルが立ち並ぶジャカルタと比べると、落ち着いた古都と言った感じで、街並もペースも格段に牧歌的だ。

カラフルな植物に囲まれているからか、家や建物も鮮やかなジョグジャカルタの路地裏

カラフルな植物に囲まれているからか、家や建物も鮮やかなジョグジャカルタの路地裏

歩いて回るのも良いが、自転車の前に屋根付きのベンチをつけたような、ベチャもまた良い。左右にユラユラと揺れる感じや走る速度が、のんびりとした雰囲気と良く合う。タクシーなどでは入ることのできない民家の細い路地裏を、スイスイと通り抜けていくのも魅力だ。

旧市街地の一番の見所は、何と言ってもクラトンだが、予定していた日にインドネシアの大統領選および各地方知事選の投票日が重なり、臨時閉館だった。地方知事選と言っても、ジョグジャカルタでは王族が知事を兼任しているため、実際の投票は大統領選のみだが、閉館は閉館だ。

そこで、王室の別邸とも言われる「水の宮殿」、タマン・サリに行ってみた。18世紀に造られた、どっしりとした石造りの宮殿には美しい彫刻が施され、中にあるいくつものプールで王族が水浴びを楽しんだ。ふたつのプールに挟まれた建物の3階の部屋から王が女性たちを見初めたそうで、天守閣のように四方に窓があるこの部屋には涼しい風がそよいでいた。

立派な史跡だが、現地の人々があちこちでしゃがみ込んでおしゃべりに夢中になっているのには驚いた。それだけ親しみ深い場所だということなのだろうか。そして、インドネシアの人は、自撮りはもちろんのこと、ポーズに凝った記念撮影にたっぷりと時間をかける。日本では見かけなくなった自撮り棒も、まだまだ健在だ。 

軽く食事のできる場所を探していると、中年の男性たちが木陰に並べたテーブルでチェスをしていた。そばに屋台があったので、食べ物を注文したいと伝えると、奥にいた中年の男性が、「ここの食べ物は現地の人用だから、君たちはお腹を壊すかもしれない。ちゃんとした食堂に連れて行ってあげるよ」と、案内を買って出てくれた。

この男性はあだ名をスギさんと言い、キリッとした渋い顔立ちだが、笑うと歯がいくつか抜けている。インドネシアの伝統楽器、ガムランの奏者で、王室の音楽隊に所属しているのだそうだ。日本から来たと伝えると、一度NHKで演奏したことがあると嬉しそうに教えてくれた。小指の先端が黒く染まっていたので、聞いてみると、投票後に指の先を染めて重複投票を防止するのだそうだ。

同じ人に何度も遭遇するというのも、こじんまりとした街ならではだろう。食事を終えて別の地区を散策していると、1台のスクーターが少し先の家の前に停まった。振り返った男性は、なんとスギさんではないか。このすぐ近くに住んでいるのだと言う。「興味があるなら、近くに凄腕のバティック作家がいるから、紹介してあげる」と、言われるがまま着いて行くと、アガさんというバティックの巨匠のスタジオだった。

アガさんに会うのも、実は2回目だった。数日前、インドネシアのろうけつ染め、バティックの体験ワークショップを探している時にたまたま通りかかったのが、彼のアトリエだった。日本人の弟子に教えていたこともあるというアガさんは、「今日のワークショップは終わってしまったし、選挙の関係でこれから数日間は休みだけど、せっかくだから」と、絵付けを体験させてくれた。

バティックの彩りもそうだが、ジョグジャカルタにはカラフルな建物が多い。ピンクや黄色、緑など、日本では考えられないような色の家が並んでいても、この地の色彩豊かな植物に囲まれていると、しっくりとくるから不思議だ。散策中に通りかかったモスクも鮮やかな緑色だった。入り口の前で振る舞っていた甘い生姜湯を、ありがたくいただいていると、中からどっと女性たちが出て来た。それぞれ色鮮やかなベールをかぶり、ワイワイと賑やかだ。そして、あっという間にスクーターに乗って、帰って行ってしまった。

夕方、旧市街地を出てジョグジャカルタの繁華街、マリオボロ通りに繰り出した。全長約1キロメートルの大通りの両側にはぎっしりと店が並び、ネオンが明々と照らす通りは、人や音楽、車にスクーター、馬車で溢れかえっている。それにもかかわらず、この日、マリオボロ通りで見た夕日は息をのむほど美しかった。雑踏の中のベンチにいることを忘れ、赤みがかったピンク色から濃い紫まで、刻々と変化する空にネオンがとけ込んで行くのをずっと眺めていた。

夕暮れのマリボロ通り。空の色が鮮やかで、映画のセットみたいだ。

夕暮れのマリボロ通り。空の色が鮮やかで、映画のセットみたいだ。

 <取材協力>

エア・アジア http://www.airasia.com/jp/ja/home.page

<旅の情報>

ジョグジャカルタはジャワ島の中部に位置しており、ジャカルタからは飛行機で約1時間、電車では約10時間。国内線の航空券は空港の自動販売機でも購入可能。空港から旧市街地まではタクシーで30分ほど。

*この記事は、2017年に朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。

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