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これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

世界で一番大きい仏教寺院、ボロブドゥールから日の出を見る インドネシア(3)

世界で一番大きい仏教寺院、ボロブドゥールから日の出を見る インドネシア(3)

世界で一番大きい仏教寺院が、ジャワ島にあることをご存知だろうか。ジョグジャカルタから車で1時間ほど北西に位置するその寺院、ボロブドゥールは、イスラム教到来前の、仏教とヒンズー教が勢力を二分していた9世紀前後に造られた。ガイドブックを開けば、この寺院から日の出を見るのがお勧めだと書いてある。雨期でも、雨さえ降らなければ問題ないと聞き、祈るような気持ちで午前3時半にジョグジャカルタを出発した。

暗闇のなか寺院に到着すると、周辺のモスクから朝一番のお祈りが流れ始めていた。辺り一帯から聞こえてくるイスラム教の祈りに包まれて、懐中電灯を頼りに世界最大の仏教寺院を登る。幻想的で感慨深いこの経験ができただけでも、早起きをした甲斐がある。 

丸いピラミッドのような寺院をぐるりとまわるが、暗さと眠さでガイドの説明が頭に入ってこない。ただただ、朝日を待つばかりだ。亜熱帯のインドネシアとはいえ、朝方はひんやりと肌寒い。雨は止んだが、霧が出ている。辺りが白むにつれて寺院のシルエットが、そして雲越しに差し込む日の光に、寺院を取り囲む密林が徐々に浮かび上がってくる。周りは見渡す限りのジャングルだ。

ボロブドゥールは謎に満ちている。いつ、誰が何のためにこの巨大な寺院を建造したのかを明らかにする記録がない。そして、いつしか人々が去り、寺院は崩壊した状態で何世紀もジャングルの奥深くに置き去りになっていた。この遺跡が世界の注目を集めたのは、シンガポールの創設者で、1814年にジャワ島を統治していたトーマス・ラッフルズが率いた調査がきっかけだった。寺院の崩壊に関しては、20キロメートルほど東にあるムラピ山の噴火が一因だと考えられており、2006年の噴火の際にも寺院の大部分が再び損害を受けた。

「再建の時に新しく加えられた石は、遺跡の石と区別するために、小さなくさびが打ってあるんですよ」と教えてくれたのは、ガイドのアザールだ。若干26歳の彼は、流暢な英語の他に、母国語である故郷ボルネオ島の村の言葉、マレー語、ジャワ語、そして共通語であるインドネシア語を操る。大学の英語学科で知り合った奥さんはスマトラ島の出身で、家では夫妻の2歳になる息子も含め、主に英語とインドネシア語で会話をするという。

アザールは、どんなに些細なことを聞いても、必ず答えてくれる。寺院のすぐ外に落ちていた沢山の木の実について聞いてみると、ピナンという実で、昔は歯磨きとして噛んでいたものだという。彼の故郷の村も含め、今でも地域によってはピナンを噛んでいるお年寄りがいるそうで、細かく刻んで葉っぱに包んだり、そのままかじったり、嗜み方に地域性がある。話に聞き入り、機会をのがしてしまったが、私もかじってみたかった。特有の辛みがあって、噛むと歯が黄色くなるそうだが…。

ジョグジャカルタ滞在中、見たことのない木や装飾品に遭遇するたびに、「後でアザールに聞こう」が、いつしか合い言葉になっていた。「ガイドの仕事をしているんだから、当然だよ」と、本人は至って涼しい顔をしているが、旅行中の疑問に答えてくれる人がいると、旅が何倍にも面白くなると改めて気づかされた。

寺院を出て車で数分の場所には、世界で一番高いコーヒー、ルアック・コーヒーの店パウォンがある。コーヒーの実を食べるジャコウネコ(ルアック)のフンに含まれる種(コーヒー豆)で作るコーヒーだ。最近は檻でジャコウネコを飼い、コーヒーの実を食べさせる業者もいるそうだが、ここでは畑で放し飼いにしている。すると、熟れたコーヒーの実だけを選んで食べるため、その分美味しいコーヒーができるのだとか。味見させてもらったルアック・コーヒーは、私の舌には普通のコーヒーと何ら変わりはなかった。一袋100グラムで4000円もするが、それでも日本で買うよりはずいぶんと安いそうだ。

お土産と言えば、帰国してから、インドネシア原産の農作物で作る商品を販売する「JAVARA」を起業したヘリアンティ・ヒルマンさんの話を聞く機会があった。弁護士だった彼女は、インドネシア固有の多様な穀類を守るために会社を立ち上げ、今では困っている農家の人々の拠り所のような存在となっている。ボロブドゥールも損害を受けた2006年のメラピ山噴火の直後には、大急ぎで収穫した野菜を、麺に練り込んで「レインボー・ヌードル」として商品化したという。ひとつひとつの商品にストーリーがあるだけでなく、ヨーロッパの有名レストランで採用されている商品もあるほど、品質も素晴らしい。店舗があるのはジャカルタだが、次回インドネシアを訪れた際には、ぜひ立ち寄ってみたい。

<旅の情報 ジョグジャカルタ>

ボロブドゥールはジョグジャカルタから車で1時間半ほど。日の出を見るツアーは、ジョグジャカルタ市内に宿泊している場合は1人約5000円。ボロブドゥールに隣接するマノハラホテルに宿泊すると、日の出の時間帯も含め、無料で寺院にアクセスすることができる。拝観料は2017年5月から値上がりして、1人25米ドル。

<取材協力>

エア・アジア航空:http://www.airasia.com/jp/ja/home.page

Javara:http://www.javara.co.id

*この記事は、2017年に朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。


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暖かい人々に出会う王族の街、ジョグジャカルタ旧市街地 インドネシア(2)

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