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Hi.

これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

ジョンブラン洞窟 巨大な暗闇と神々しく変幻自在な光 インドネシア(4)

ジョンブラン洞窟 巨大な暗闇と神々しく変幻自在な光 インドネシア(4)

林に囲まれた泥だらけの道を、ひたすらガタゴトと走る

林に囲まれた泥だらけの道を、ひたすらガタゴトと走る

オレンジがかった粘土質のでこぼこ道を進む車は、寝不足の私たちを叩き起こすように、左右に、上下にと、激しく揺れていた。「僕が育ったボルネオの村の道もこんな感じだったから」と、ハンドルをにぎるガイドのアザールは涼しい顔で運転を続ける。周りは林のように見えたが、あちこちに作物が植えてあるらしい。「あれはキャッサバ、あっちもキャッサバだけど、違う種類のもの!」アザールが指差す方向を見てみるけれど、激しい揺れが邪魔して、周囲の木との違いが良くわからない。20分ほど進むと、ようやくジョンブラン洞窟のベースに到着した。ベースと言っても、周りの景色はこれまでと変わらず、見渡す限り赤茶色の土と林だ。

ジョンブラン洞窟は、ジョグジャカルタ市内から車で2時間ほど南東にある巨大な地底空間の一部だ。地面にぽっかりと開いた大きな穴を70メートルほど下り、底に広がるこの洞窟を探検できると聞いて、冒険への参加を即決した。

ベースで長靴とヘルメットを渡され、洞窟に備える。林の中には聞いていた通り、渋谷のスクランブル交差点ほどの大きな穴が開いているが、身を乗り出して底を見る勇気はない。穴の淵に、公園の遊具に縄を通しただけのような簡素な足場が組まれていて、ここからロープで吊るされて洞窟へ向かうのだと思うと、なんだか心もとない。そんな心配をよそに、スタッフの男性陣は、実にテキパキと準備を進めている。

 参加者は、私たちのような外国人の観光客よりも、インドネシア人の方が若干多かった。洞窟ツアーの参加料は外国人もインドネシア人も一律約5000円で、現地ではかなりの高額にも関わらず、人気が高いようだ。

ハーネスを装着すると、2人1組で吊られて、20階建ての建物とほぼ同じ高さを1分ほどかけてスルスルと下って行く。人種を問わず、男性よりも女性たちの方がスリルを満喫している様子が面白い。大人2人を実に滑らかに下ろして行くが、足場で縄を操っているのは見た限りスタッフの男性2人のみで、ロープをにぎる手つきも随分と軽やかだ。物理学のクラスで習った、滑車をいくつもつないで力を分散させる構造なのかと思っていたら、後方で村の男性たちが一生懸命ロープを引っ張っていた。

穴の底は地上とさほど変わらず、木々が生い茂る地面がそのまま陥没したような景色だった。参加者全員が地底に揃うと、歩いて洞窟へ向かう。地面がぬかるみ、気をつけていないと転んでしまそうだ。

洞窟の中は日が当たらないので外より少し涼しいが、湿度が高くて汗が止まらない。奥に進むほど光から遠ざかり、じっとしていれば、光も音も匂いもない、感覚から切り離されたような空間だ。地下水に削られてできたというこの巨大な洞窟に、地球の壮大さを感じずにはいられない。暗闇にポツンポツンとスタッフがライトを灯すものの、地面の凹凸が光を遮り、足下は闇に包まれたままだ。転ばないように足を擦るようにして必死に歩く。「歩く」と言っても、周りが見えないので、前進する感覚もなく、「歩く動作」を続けたと言う方が正しいかもしれない。ようやく行く手に白い光が見えた時には安心感と疲労がドッと押寄せたが、時間にすれば、洞窟の入り口を出発してから30分ほどしか経っていなかっただろう。

 たどりついた奥の空間には天窓の様に天井に穴が開いていて、この穴から流れ込む木漏れ日が、光の雨のように、白く洞窟内に降り注いでいる。雲の動きに応じて、光が生き物のように次々と形を変えていく様子は、神秘的で、神々しい。自然崇拝はきっと、こういう瞬間に生まれるに違いない。

1時間半ほどの短い“探検”だったが、洞窟から出ると、木々や空の色が前より一層鮮やかに見えた。ツアーに付いてくるお弁当も、ご飯に野菜炒めと鶏肉というシンプルなものながら、味わい深い。

 シャワーを浴びて着替えを済ませた後、いくつか寄り道をしてから、アザールが夕焼けスポットとして有名なラトゥボコ寺院へ連れて行ってくれた。残念ながら寺院自体はすでに閉館していたが、隣接するレストランのテラスから、ゆっくりと優しいピンク色に包まれていくのどかな田園風景を心行くまで楽しんだ。

ラトゥボコ寺院に隣接するテラスから見た美しい夕焼け

ラトゥボコ寺院に隣接するテラスから見た美しい夕焼け

<取材協力>

エア・アジア航空:http://www.airasia.com/jp/ja/home.page

<旅の情報 ジョンブラン洞窟>

ジョンブラン洞窟はジョグジャカルタ市内から車で約2時間弱。洞窟探検ツアーは洞窟のある村が運営している。ツアーは1日1回のみで、当日の午前10時で受付が終了し、入れる人数に制限があるので早めに到着したい。ジョグジャカルタ市内から交通費込みのツアーを個人的に申し込む方がスムーズ。洞窟探検の料金は約5000円で、必要な装備の他に、シャワーとお昼ご飯付き。

*この記事は、2017年に朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。

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