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これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

流氷を求めオホーツク海沿岸へ 冬の道東(上) 紋別~サロマ湖

流氷を求めオホーツク海沿岸へ 冬の道東(上) 紋別~サロマ湖

北海道北東部のオホーツク海沿岸には、冬になると流氷がやってくる。はるか北、サハリン周辺で海水が凍り、風や海流に流されて、沿岸に到達する。流氷の着岸は、紋別や網走、知床では、冬の風物詩とも言える。

紋別港では「もんべつ流氷まつり」の準備が進められていた

市街地のそばで流氷が見られるのは世界でも珍しいそうで、毎年多くの人がその光景を一目見ようと道東を訪れる。しかし、流氷が見られる時期は気候や風の向きに左右されやすく、対面できるかどうかはまさに風まかせ。2019年の2月初頭、紋別港発の流氷クルーズ船「ガリンコ号」に乗る予定だった私も、内心ヒヤヒヤしていた。予約の前日は流氷がなかったからだ。

「昨日は沖の方に来ていたよ。こっち向きの風が吹けば一晩でも一気に来るんだけど」。夕飯を食べに行ったお好み焼き店の店主は、励ますように言ってくれた。地元の人は、「昨日は居た」「こっちに来る」「沖に行っちゃった」と、まるで流氷が生き物であるかのように語る。

港近くの定食屋さんで食べたお刺し身定食は700円。脂が乗っておいしい

紋別出身の友人に、流氷の位置がわかる海上保安庁のサイト「海氷速報」を教えてもらった。祈るような気持ちで更新し続けるが、流氷が海岸線に近づいてくる気配はない。

「昔は冬になると必ずたくさん流氷が来ていたのに、最近はすっかり減ってしまった」。道東で出会った地元の人たちは、そう口をそろえる。「小さい頃は、流氷の上に乗って遊んでいたんだよ」。タクシーの運転手さんも、懐かしそうに教えてくれた。こんなところにも、温暖化の影響が現れているのだろうか。

翌朝の午前5時半。気温は-4℃。だが、これでも暖冬なのだそうだ。そして、流氷は来ていなかった。

身を切るような寒さの中、ゆっくりと呼吸をするように上下する海面をガリンコ号は進んでいく。空を赤紫色に染める朝日と、うろこのような氷に覆われた一面の海。美しく、神秘的な光景だ。

氷に覆われた青い海面と空を赤く染める朝日。息を飲むほど美しい

風向きの関係で流氷は海岸まで流れてこなかったが、海水が凍って大きなおはじき状の氷となり、海面を覆っている

海全体がまるで生き物のように見える。流氷にこだわっていたのがうそのように、真冬のオホーツク海の美しさに圧倒されてしまった。

紋別からオホーツク海沿いを東に1時間ほど車で走ると、日本で3番目に大きい湖、サロマ湖に着く。もともとは海水と淡水の混ざる汽水湖だったが、1929(昭和4)年にオホーツク海とつなぐ湖口を開けたため、湖の水は海水に近いそうだ。

ここは、ホタテやカキの養殖が盛んで、10月から3月末までは、カキがシーズンを迎える。サロマ湖のカキには、2年育てた通常サイズのほかに、地元の漁師が好んで食べる1年ものがあり、小粒ながらうまみがぎゅっと詰まっている。「COYSTER(コイスター)」としてブランド化されたこの小ぶりのカキは、湧別漁業協同組合が運営するオホーツク湧鮮館で購入できる(ネット通販あり)。

COYSTERは1年で出荷するため、小粒でぎゅっとうまみが詰まっている

生産者の一人、工藤輝之さんの作業場に特別にお邪魔させてもらうと、家族総出で殻むきをしているところだった。刺激を与えると大きく、しっかりとした身に育つため、カキのタナを水中で動かすなどして、手塩にかけて育てているという。

作業施設の外に積んであったカキのタナ。これをサロマ湖に沈める

育つ過程で、いくつかのカキがひとかたまりになり、そこに小さなムール貝や藻がからむそうで、作業台には拳三つ分ほどのカキの塊が積まれていた。そこから、小さなナイフ一つで、殻を次々とリズミカルに外していく。

工藤さん一家は、家族総出でカキの殻むきをする

地元ならではの食べ方を教えて欲しい、とお願いすると、カキのおみそ汁をごちそうしていただいた。プリプリでつるっとした身は、生食とも違う味わいで、いくらでも食べられそうだ。「最後にネギと一緒にカキを入れるだけだから、簡単よ」と奥さんのひろさんは笑うが、なんともぜいたくなおみそ汁である。

カキがゴロゴロと入っているおみそ汁は、地元ならではの味

カキやホタテの養殖が盛んなサロマ湖では、冬の間、流氷が湖内に侵入しないよう、海口部にネットをかけている。流氷が入ると、湖内の養殖設備に被害を受けるからだ。また、オホーツク海沿岸では、冬の間、陸にずらりと並べられた船をよく見かけるが、これもまた、流氷による被害を防ぐためである。流氷そのものには、なかなか巡り合うことはできないが、ここに暮らす人々の会話や習慣から、存在を身近に感じた。

流氷などで傷がつかないよう、冬場は陸揚げされた船がずらりと並ぶ

サロマ湖のさらに東、網走周辺では、海流に乗ってきた流氷が知床半島あたりにせき止められると聞いて、知床半島まで足を伸ばして見たが、結局流氷は見当たらなかった。網走の流氷クルーズ船「網走流氷観光砕氷船 おーろら」でも流氷なしとなっていた。

2021年は、例年よりも早い1月26日に紋別で流氷が接岸したそうだ。いつかは巡りあってみたいとはいえ、流氷を差し引いても、真冬の道東には圧倒的な自然の美しさと食のおいしさが待っている。コロナ渦で気軽に訪れることはできないが、流氷の位置情報やサロマ湖のカキを自宅で楽しんでみるのも手かもしれない。

【旅の情報】
紋別までは、札幌などの都市からバス、もしくは女満別空港からレンタカー。紋別からサロマ湖までは車で1時間強。冬場は道路が凍るため運転には十分に注意を。

■ガリンコ号
https://o-tower.co.jp
要予約。チケットは船の種類により大人3000~3500円(流氷がない場合500円引き)。

■オホーツク湧鮮館
http://www1.enekoshop.jp/shop/yusenkan/
午前9時~午後5時。火曜定休。「COYSTER」を販売しているかどうかは事前に電話などで確認を。

この記事は朝日新聞デジタル版に2021年2月23日付で掲載されたものです。https://www.asahi.com/and/article/20210223/300320125/

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

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