素朴な港町とビーチでゆったり 香港(3)
高層ビルの立ち並ぶ香港のセントラルから船は出発
高層ビルが山をなす香港の中心地、セントラルから船に乗る。向かうは香港で最も大きい島、ランタオ島だ。
点在する島々が石庭のような景観を楽しみ、30分ほどで島南部の玄関口、梅窩(ムイオー)港に到着した。照りつける日差しに、潮や濃い木々の香りがわき上がり、汗がふきだす。港の前には小さなロータリーと市場があって、ひなびた田舎町の雰囲気だ。
1980年代までランタオ島の見どころといえば、ハイキングと海水浴、それに中部の山頂にある天壇大仏くらいで、自然豊かなのんびりとした島だった。しかし、近年、東部に高級住宅地とディズニーランド、北部に新しい国際空港が相次いでオープンし、島の北東部はすっかり市街地と化した。地下鉄やバス、高速道路など交通網も充実し、今では香港中心部の延長線上にあたるエリアだ。
たどり着いた砂浜は、海と木立の間に白い三日月のようなカーブを描いていた。波の向こうには、船から見えた島々がもやにかすんでうっすらと浮かび、背後には雲を抱いた山が迫る。ランタオ島の中心部には東京の高尾山より少し高い香港の高峰が連なり、ハイキングを楽しみに来る人も多い。ビーチにはレンタル用のサーフボードや浮輪が並んでいた。平日の昼間だからか、人はまばらだが、週末は地元の人と観光客でにぎわうそうだ。
一方で、山を隔てた梅窩など島の南部には開発の手がそれほど及ばず、昔ながらの雰囲気が感じられる。香港島からのアクセスも、フェリーが一番便利だ。港からバスに乗り、香港一長い、全長2キロの下長沙(ロウワー・チョンサー)ビーチへと向かう。途中、山道で1頭の牛とすれ違った。誰に連れられるわけでもなく、気の向くままに歩いている。そう言えば、港から続く道に牛の落とし物らしきものが落ちていた。
ビーチ沿いに並ぶおしゃれなレストランのひとつ、「Long Island」で一息ついた。香港に移り住んで25年のフランス人オーナー、ソフィーさんが、今年の4月にオープンしたばかりのお店だ。海辺のテラスで食べる手作りのハンバーガーや、カレー味の焼きビーフンは格別においしい。これは、「ビール!」と言いたいところだ。
「ここのビーチには毎日夕方になると牛が20頭くらい集まって来て、ここで寝るの。そして、朝にはまた島のどこかに散り散りになって行くのよ。」とソフィーさんは言った。「最近は、南からの波にのってたくさんのゴミが漂着することが多くなって残念。その都度ボランティアの人たちがゴミを拾って、ビーチをきれいに保っているのだけれど。」
さっきまで波打ち際でシーカヤックと格闘していた4人組は、ようやく沖の方へこぎ出した。ひと泳ぎして汗を流し、木陰でゆっくり昼寝ができたらどんなに気持ちが良いだろう。エネルギッシュな市街地の騒がしさから離れて、時間を気にせず一日のんびりと過ごしたい。

<梅窩(ムイオー)への行き方>
香港島のセントラルフェリー乗り場のピア6から、梅窩(ムイオー)行きが1時間に1、2本の頻度で出ている。高速フェリーは大人28.5ドル(平日)、42.9ドル(日曜・祝日)。所要時間は30分ほど。梅窩(ムイオー)から1番か2番のバスで約30分、下長沙(ロウワー・チョンサー)で下車。
取材協力:香港政府観光局、キャセイパシフィック航空
*この記事は、2016年8月26日付で朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。https://www.asahi.com/and_travel/20160826/1987/