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これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

アクアブルーの海が美しい港町 欧州の「秘境」アルバニア紀行(2)サランダ

アクアブルーの海が美しい港町 欧州の「秘境」アルバニア紀行(2)サランダ

アルバニアを訪れたのは、夏の観光シーズンが落ち着く9月末だった。一緒に行った友人が「海で泳ぎたい」と言うので、首都ティラナの空港でSIMカードを販売していた店員に、まだ泳げるような海岸はないか聞くと、「もう寒いから無理じゃないかな」と大笑いされてしまった。

ティラナからサランダまでは約270キロ。アルバニアには、鉄道がほとんど通っていないため、移動は基本、長距離バスとなる。

中心部から少し離れた場所にある、ティラナの長距離バスターミナルには、チケットカウンターや詳しい時刻表などがなく、「バスのたまり場」と言った方が近いかもしれない。さらに、バスの情報は、インターネットで検索してもらちが明かないので、初めて訪れる人は少なからず不安になるだろう。

それでも、バスターミナルに行ってみると、その場にいた人たちが「行き先は? サランダならあそこのバスだ。10分後に出るよ」と口々に教えてくれ、ちゃんと乗ることができた。アルバニアは、アルバニアのシステムで機能しているのだ。そして、わからないことはすぐにネット検索してしまう私に、旅本来の面白さを思い出させてくれる。のんびりと構えて、現地の人に頼ること。これが、アルバニアの旅を楽しむための秘訣(ひけつ)であり、醍醐味(だいごみ)だ。

丘に沿って広がるサランダの街には、いたるところに階段がある

ティラナを出発して1時間ほどすると、建物もまばらになり、荒涼とした草原で、そして傾斜の険しい山肌でも、羊やヤギたちが草をはむ姿が見られる。悠々と大地をうねる青い川。険しい山間の小さな集落。そして出発から約6時間後に、最後の山を超えると、目の前にキラキラと光るイオニア海とサランダの街が開けた

早朝、港では、獲れた魚を船に並べて魚市が立つ

サランダは、古くからから栄えた港町で、夏には、アクアブルーのビーチを求めて多くの観光客が押し寄せる、アルバニア屈指の観光地でもある。

海辺から丘を登るように広がる街は、薄い色の石を敷き詰めた通りをいくつもの階段がつなぎ、立体的で美しい。1時間もあれば、中心部はほとんど回れてしまうほどこぢんまりとしているいが、港にずらりと並ぶヨットや水際を縁取るレストランのテラスなどをのんびりと眺めるだけでも、バカンス気分が存分に味わえる。

港町だけあって、シーフードがおいしい。タコのグリルは、外がカリカリ、身は柔らかくねっとりとして、絶品。観光地なので、値段は少々高め

サランダが観光地として人気なのは、周辺に日帰りで行ける観光スポットが比較的多いこともあるだろう。世界遺産に登録されている遺跡群があるブトリントまでは、路線バスで1時間ほど。また、美しさで有名な泉「ブルーアイ」は、バスで30分ほど揺られた山あいにある。

ブトリントは海上交易の要所として、ギリシャやローマ帝国、オスマン帝国など、時代ごとの勢力が紀元前から様々な建造物を建ててきた「地中海史の縮図」のような場所だ。中世に入ると周辺の自然環境が変わり、長い間、建物もろとも放置されてしまったため、当時の姿が比較的保たれている点でも珍しいそうだ。

ブトリントの城跡からは、アドリア海へと注ぐ水路と湿地帯を一望できる

中でも、ギリシャ式の劇場やローマ浴場、初期キリスト教の大聖堂などの遺跡は、基礎がかなり保存されているので、在りし日の様子を思い浮かべてみるのも面白い。さらに、丘の上にある城跡から一望できる周辺の湿地帯は、息をのむ美しさだ。

6世紀、ビザンチン帝国時代に建てられた教会の遺跡

遺跡は、アドリア海へと流れる水路をはさんで対岸にもいくつかあり、橋のないこの水路の渡り方がまた面白い。巨大ないかだのようなプラットフォームに車ごと乗りこみ、向こう岸まで移動するのだが、なんともシュールな光景である。

水路の向こう側には、車ごと巨大ないかだに乗って移動する

ブトリントからの帰りには、路線バスを途中下車してクサミルのビーチを訪れることもできる。輝く海と、白い砂浜、入江に浮かぶ美しい島々が魅力のこのビーチは、シーズン中は観光客でごった返すが、9月末には人もまばらで、のんびりと楽しめた。水は少々冷たいものの、日差しが強いので、まだなんとか海水浴もできた。まるで、楽園のような場所である。

美しいクサミルのビーチ

日帰りで行けるもう一つの人気スポット、「ブルーアイ」に行く時には、ちょっとしたハプニングがあった。

「ブルーアイ」に行く途中で、ヤギを放牧していた男性

サランダから乗ったバスの運転手さんに「ブルーアイで降ろしてね」とお願いしていたのだが、通り過ぎてしまったのだ。結局、ブルーアイから15分ほど走った山の中で降りる人がいたので、一緒にバスを降りようとしたところ、「しまった!」という表情で、「ごめんね。すっかり忘れていた! 反対側にバスが来るから、それに乗って」と運転手さん。「歩くから気にしないで」と伝えると、あわてて対向車線を走ってきたトラックを止めて、私をブルーアイまで送るよう頼んでくれ、相手方も二つ返事で引き受けてくれたのだった。

美しい水がこんこんと湧く「ブルーアイ」

さらに、ブルーアイを見終わり、帰りのバスを待っていると、遠くからクラクションの音が聞こえてきた。走って来たのは、ここまで送ってくれたトラックで、運転手さんが笑顔で手を振ってくれた。きっと、サランダで荷物をピックアップして、戻って来たところなのだろう。驚くほど透明度の高い、青い泉はもちろんのこと、アルバニアの人たちの優しさを体感したハプニングもまた、思い出深い場所となった。

次回は、北部の山岳地帯にある小さな集落、セシへ。

<旅の情報>
サランダへは、アルバニアの首都ティラナからバスで6時間ほど。また、ギリシャのコルフ島からも、フェリーに乗り1時間半ほどで行くことができる。サランダからブトリントおよびブルーアイまでは、街の中心部にあるバス乗り場に行き、目的地を告げるとどのバスに乗ればいいのか教えてくれる。

この記事は朝日新聞デジタル版に2020年4月8日付で掲載されたものです。https://www.asahi.com/and/article/20200408/300235628/

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