IMG_20200217_140417.jpg

Hi.

これまで書いてきた旅の記事や、書ききれなかったこぼれ話を集めてみました。

おせっかいだけど憎めない運転手と巡るゴアの観光名所 インド(2)

おせっかいだけど憎めない運転手と巡るゴアの観光名所 インド(2)

「せっかくゴアに来たから、名所巡りをしよう」、と友人が運転手を手配してくれた。手配と言っても、道路に椅子を置いてのんびりとお客を待っている運転手と数分間、時間と値段の交渉をして連絡先を交換したのみ。それでも翌日、約束の時間ぴったりに玄関まで迎えにきてくれた。

 車に乗り込むと、大音量の音楽。これがインドの車の標準装備なのだと気がつく。この運転手、ビッタルも、先日の路線バスのように、かわいそうなほどステレオを酷使している。大声で会話をしなければならないし、その度に後を振り向いたり、気に入らない曲を飛ばしたり、CDを代えたり、大忙しだ。その上、運転が荒いので、「移動時間に睡眠補給」などという甘い考えは到底通用しない。

 まず向かったのは、キャベロッサムから北東に2時間弱の、サハカリ・スパイスプランテーション。ここでは、有機栽培されているスパイスの歴史や使い方、効能などをガイドと共に散策しながら学ぶことができる。普段は目にすることのない収穫前のスパイスを見られるとあって、インド国内の観光客も多い。

 チャイやカレーに欠かせないカルダモンは、ショウガ科の植物で、葉っぱの形もショウガやミョウガに似ている。かつて、インド原産で貴重だったコショウを求めてヨーロッパの国々はインドに押寄せたが、ゴアを植民地としたポルトガルが、今ではインド料理に欠かせない唐辛子をこの地にもたらした、など歴史的なつながりも面白い。

 プランテーションのあとは、いくつかのヒンズー教の寺院とキリスト教の教会やアグアーダ城を見てからアルポアのナイトマーケットに行く予定になっていた。敬虔なキリスト教徒のビッタルは、その道中、「ヒンズー教はよろしくない」と辺り構わずまくしたてる。かといって、時間が無いので見る寺院の数を減らしたい、と言うと、「あの寺院は本当に美しい、絶対に見るべきだ」と強引に連れて行こうとする。そそして、わざわざ自分も車から降りて、誇らしげに「どうだ、本当にきれいだろう?」と言うのだ。

 訪れた三つのヒンズー教寺院は、どれもオレンジやピンクなど鮮やかな色で塗られ、外観はどこか南欧風だった。しかし、ピカピカに磨かれた石の床や細かいモザイクの装飾を施された壁には、モスクの様な雰囲気がある。観光客でも入ることはできるが、屋内には凛とした緊張感が漂っており、背筋が伸びる思いだった。

 オールドゴアにあるボム・ジェズス大聖堂へと向かう途中で、ビッタルは、独身の私達を話題にし始めた。「独身の観光客はクラブに行きたがるんだ。恋人を捜しにね。君たちも連れて行ってあげようか?」と、この辺りで人気のあるクラブの名前を持ち出しては、「本当に行かなくていいの?」と念を押す。カトリック教徒の多いゴアでは、治安は良いものの、女性のみの旅行が批判的に見られることも少なくなく、あれこれと詮索されることも多いのだそう。

 ボム・ジェズス大聖堂は、日本でも良く知られたフランシスコ・ザビエルの遺体が安置されている教会だ。16世紀の半ばに「イエズス会」を設立したザビエルは、布教のために来ていたゴアでヤジロウらと出会い、日本へと渡った。その後、中国での布教を目前に亡くなったザビエルは聖人と認定され、保存された遺体は、ボム・ジェズス大聖堂で10年に一度公開されている。次の公開は2024年の予定だ。

 1605年に完成した大聖堂は、バロック調の外観が裏に生えるヤシの木のコントラストに映え、華麗な装飾が施された内部には荘厳な雰囲気が漂う。キリスト教徒ではないインド人の拝観者も多く、現地でも観光地として人気が高いようだ。中庭にはキリスト生誕の様子を模した展示があり、厳かな大聖堂内とは対照的な、一昔前のデパートの屋上のような賑わいを見せていた。

 アグアーダ城はすでに閉館してしまっていた。「だから、寺院はひとつで良いと言ったのに」と、友人が嘆くなか、観光客が多く集まるパナジビーチに寄ってから、ナイトマーケットへ向かった。

 毎週土曜日にアルポアで開催されている大規模なナイトマーケットには、スカーフや洋服、スパイスにアクセサリーなど、お土産に良さそうな商品を売る屋台が軒を連ねている。インドでは、その日の最初の売り上げは幸運を呼ぶとして、言い値が通りやすいため、買い物は早めの時間帯がお勧めだ。音楽の生演奏や食べ物を売る屋台も多く、お祭りの様に楽しめる。年末ということもあり、帰りは大渋滞で、家に戻るころには日付をまたいでいた。

 最終日、このツアーで仲良くなったビッタルに、空港まで送ってもらった。その道すがら、私達が独身であることをよほど気にかけていたのか、早朝で夢見うつつの私達を「愛には良い時もあれば悪い時もある」と熱心に諭しながらアクセルを思い切り踏み込んだら、突然タイヤがパンクしてしまった。「言わんこっちゃ」ということが、彼には立て続けに起こるのだ。しかし、「ちょっと待ってて」と車を降ると、様子を見に来たトラックの運転手と一緒に、ものの10分ほどでタイヤを付け替え、意気揚々と運転席に戻ってきた。「何が起きても、私は対処できるから大丈夫」と、なんだか嬉しそうだ。そして、時間通りに空港に送り届けてくれた。名所巡りをより一層楽しませてくれたのは、まぎれもなくビッタルだった。

 <旅の情報>

サハカリ・スパイスプランテーションは、入園料が約700円で、昼食付き。園内で育てたスパイスを買うこともできる。寺院や教会など、宗教施設を訪れるときは、肌の露出を避け、肩と足を覆う配慮を。無料で拝観できるが、お供え物を買って供えることもできる。アルポア・ナイトマーケットは11月から2月の毎週土曜日の午後6時から深夜2時まで開催している。タクシーは1日の予定を確認してから値段交渉し、3500円ほどだった。

*この記事は、2018年3月28日付で朝日新聞デジタル版&Travel「あの街の素顔」に掲載されたものです。https://www.asahi.com/and_travel/20180328/11911/

ボンベイの住宅街で、美味しいもの三昧 インド(3)

ボンベイの住宅街で、美味しいもの三昧 インド(3)

アラビア海に面した「最もインドらしくない地域」、ゴア インド(1)

アラビア海に面した「最もインドらしくない地域」、ゴア インド(1)